あきゅらいず

Vol.19 怪我の功名

湯 忠立先生

2014/05/15

料理名の龍井(ロンジン)はの産の緑茶のことです。
また蝦仁はエビのことで、エビは栄養豊富な食品として貴ばれていました。

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その昔、清の乾隆帝は庶民の服で皇帝の服を隠し、西湖に遊山に出かけました。
ちょうど清明節の頃です。

皇帝がのあたりに着くと、急に雨が降り出したので近くの民家で雨宿りをしました。
その家の婦人は採れたての龍井茶を勧めました。

皇帝はそのお茶が大変気に入り、少し持ち帰りたいと思ったのですが、なかなか言い出すことができませんでした。
そこで、こっそり茶葉を一つまみ、皇帝の服に隠して持ち帰ることにしました。
そうこうしているうちに雨も上がり、婦人に素知らぬ顔で別れを告げて再び遊山に出かけました。

やがて日も暮れ、のども渇いたので西湖近くの居酒屋に入りました。
いくつかの料理(その中にエビの炒めものもありました)を注文した後、皇帝はあのお茶が飲みたいと思い、店員を呼びながら隠していた茶葉を取り出しました。

店員は茶葉を受け取る時、庶民の服の下の皇帝の服を見つけてビックリ仰天し、厨房の店主のところにすっ跳んで行きました。

店主も大慌てで店員が持ってきた茶葉を、ちょうど炒めていたエビの上にこぼしてしまいました。
乾隆帝は一口このエビ炒めを食べると「これは美味い!」と絶賛しました。

その後、皇帝付きの医者が調べると、栄養価の高い、素晴らしい料理だということがわかり、宮廷養生レシピに加えられることになりました。まさに「怪我の功名」。

店主が狼狽したおかげで名料理が生まれたのでした。

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この記事の投稿者

薬膳監修:湯 忠立(たん ぞんり)先生

中国遼寧中医学院大学付属病院の院長を務め、現在は東京・吉祥寺で中国医学整体院を営む。